連載・韓国ひとり歩き 1991.04→1995.03(NHKテレビ アンニョンハシムニカ ハングル講座より抜粋)



残 影

江原道

藤本巧

太白(テベク)山脈が南北に連なる険しい山岳地帯を切り開いた高速道路を、一路江陵市に向けて車は走った。


月精寺への道




LinkIcon月精寺への地図

支柱


道が車嶺(チャリョン)山脈に交わるあたりから、渓谷に立ち並んだモミの巨木群が激しい吹雪に揺れ動いていた。
風景は水墨画のようになり、月精寺の参道に入ったときには、まったく銀世界となっていた。






李朝時代に儒教が勢いを得て、仏教は衰退の一路を辿ることになったのだが、その当時の残影を、この山深い田圃の真ん中に現代彫刻のようにそびえ立っている憧竿(タンガン)支柱や人っ子ひとり通らないうら寂しい風景の中に打ち捨てられている三層石塔をはじめとする石塔群の中に見ることができた。








月精寺の石仏


雪はさらに激しさを増してきた。坂道でカーブをきろうとしたとき、一抹の不安が的中、ズルズルと車体が右へ左へと回転し、軽い接触事故を起こしてしまった。この車では、もう険しい山路を登ることができない。
韓国の残影をなんとかカメラに収めようとしたが、残念ながら旅を続けることを諦めた。


堀山寺の石塔